最近、すっかり更新が滞ってしまい、申し訳ありません。
ほどよく忙しく、「ブログは、明日できるやろ」と思いながら、先送りを続ける毎日です。
ところで、今日から予約受付開始のiPad、早速予約してきました!
写真は、梅田のヨドバシカメラ。長~いiPad受付カウンターが出来ていて、そこにスタッフが30人くらい、いましたよ。
長くなりそうですので、続きは、最後の「どうでもいい独り言」にて。
<●大阪市立大学 創造都市研究科 ワークショップ>
さて、今日の本題。
私の所属する大阪市立大学 創造都市研究科にて、4月20日に下記のワークショップが開催されました。
ずいぶん時間が経ってしまっていますが、とてもいいご講演を頂きましたので、ご報告します。
「ネットワーク環境下における学術情報流通政策考」
(講師: 武蔵野大学 小西 和信氏)
【概要】
情報流通の多くがネットワーク環境下におかれるようになった1990年代中葉以降のわが国の学術情報流通について、電子図書館、電子ジャーナル、日本のSPARC運動、機関リポジトリの4つのトピックを手がかりに、学術情報流通政策との関連を考える。
トピックによっても差はあるが、多くの政策文書や巨額の公的資金を投入したプロジェクトが、功を奏していないケースが頻繁に見受けられる。これらは一時的な誘導・振興で終わっており、継続的な学術情報流通の発展に繋がっていない。
結論として指摘できることは、わが国における学術情報流通政策の不在であり、NIIや大学図書館など現場の尽力によって、日本の学術情報流通が支えられていることである。本日の講演では、文献研究的ではなく、現場で見聞きした個人的な経験を中心に、「時代の空気」のようなものを伝えたい。
【キーワード】
電子図書館、電子ジャーナル、SPARC/Japan、機関リポジトリ
- はじめに
- 講演の視点
4年前まで、複数の職場で、学術情報流通に携った。その体験にもとづき、現場で見聞きした学術情報政策について話したい。
文献研究的なものではなく、個人的な経験にもとづく主観的なものであるが、「時代の空気」のようなものを、再現できれば幸いである。
- 本日取り上げる内容
情報流通の多くがネットワーク環境下におかれるようになった1990年代中葉以降のわが国の学術情報流通について、電子図書館、電子ジャーナルへの対応、日本のSPARC運動、機関リポジトリの4つのトピックを手掛かりに、わが国の学術情報流通政策との関連を考えてみたい。
----------------------------------------- - 講演の視点
- 電子図書館
- 電子図書館事始め
自分自身は、1987年頃に初めて「電子図書館」という言葉に触れた。通信工学の大家であった、当時の学術情報センター所長が、「学術情報システムの究極は、電子図書館である」と言っていた。
日本で初めて「電子図書館」という言葉を用いたのは、小松左京氏の「継ぐのは誰か」(1968年)が最初ではないか。
- 電子図書館に関する政策文書
米国のクリントン、ゴアのNII構想[情報インフラ政策]や、G7の電子図書館プロジェクトの影響を受け、国内でも電子図書館導入への検討が活発になった。
政策文書で分けても重要なのは、学術審議会の「大学図書館における電子図書館機能の充実・強化について(建議)」(1996年7月29日)である。これは「建議」であり、通常の「答申」と比べても、より重要なものとして認識されるべきものである。
これは、大学への予算化の根拠となる政策文書でもあり、大学図書館に対して「図書館電子化」への大きなインパクトを与えた。
当時の某課長によると、この建議は「1980年答申を15年ぶりに大改定するまったく新しい学術情報政策である」。
この建議は、電子図書館のことをよく考えたものではあったが、学術情報流通を総合的に考えているかどうかという点で疑問もあり、個人としてはいささか冷やかに見ていた部分もある。
3年後には、同審議会が「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について―「知的存在感のある国」を目指して―(答申)」(1999年6月29日)を発表した。電子資料への対応を指摘していることが、非常に重要である。
- 大学図書館における状況
この頃のわが国における大学図書館の状況は、京都大学電子図書館国際会議編集委員会編『2000年京都電子図書館国際会議:研究と実際』(日本図書館協会,2001年3月)で知ることができる。
わが国で行われた「電子図書館」の試行例が多く紹介されていることと、情報課で政策の中心にあった濱田幸夫氏の「電子図書館施策の今後」が掲載されている点で貴重である。
当時所属していたNIIで、1996年4月「電子図書館部会」の立ち上げ、6月「サービス協力者会議」などを経て、電子図書館課の設置のための概算要求を開始した。総務庁(当時)まで説明に行ったが、専門員と係長が配属されたのみに留まった。
- 電子図書館の功罪
慶應義塾大学の入江伸氏が指摘するように、プロジェクトの業者委託により、図書館に予算やスキルを蓄積できなかった。
モデル形成のプロジェクトという性格から、予算配分が一部の大学に限定されたことにより、「どこか知らないところで、バラバラにやっている」といった感があったのが残念である。
千葉大学の某先生も、「日本の電子図書館は失敗だよ!何の広がりも持っていない!」と言っていた。
----------------------------------------- - 電子図書館事始め
- 電子ジャーナルへの対応
- 国内電子ジャーナルの嚆矢
雑誌の価格高騰がしきりに口にされていた1999年、関東地区・東京地区国立大学図書館協議会の主催で「電子ジャーナルフォーラム」を行った。
翌2000年には国立大学図書館協議会の「電子ジャーナル・タスクフォース」が設置され、これらが日本で電子ジャーナルを考えさせるきっかけになった。
- 電子ジャーナルに関する政策文書
こうしたきっかけが与えた影響により、多くの政策文書が挙げられる。
科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 科学技術委員会 デジタル研究情報基盤ワーキンググループ「学術情報の流通基盤の充実について(審議のまとめ)」(2002年)、文部科学省研究振興局情報課「学術情報発信に向けた大学図書館機能の改善について」(報告書)」(2003年)、国立大学図書館協会「学術情報流通の改革に向けての声明文―学術基盤である電子ジャーナルの持続的利用を目指して」(2008年)、科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会「大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について(審議のまとめ)」(2009年)など
- 現場主導による普及
電子ジャーナルへの対応は、大学図書館現場の切羽詰まった取組によるもので、貢献はもっぱら大学図書館である。予算計上は微々たるもので、これだけの政策文書があったにも関わらず、政策レベルでの効果は弱いと言わざるを得ない。
学術情報の中核部分である学術雑誌を学内研究者に十分提供できない大学が増加することは憂慮すべきで、強力な国家的な支援策が講じられるべきである。
----------------------------------------- - 国内電子ジャーナルの嚆矢
- SPARC/JAPAN
- SPARC/JAPANの立ち上げ
SPARC/JAPAN(国際学術情報流通基盤整備事業)は、米国研究図書館連合ARLが進めるSPARC(1998年~)と連携し、「わが国の学協会等が発行する英文学術論文誌の電子ジャーナルを支援することを通じ、学術コミュニケーションの変革を目指」す活動で、2003年からスタートした。
2001年にARLから日本の大学図書館に対してSPARC活動への「連帯」が呼び掛けられ、それに呼応したものである。
立ち上げ当時は、相当混乱した。JSTのシステムを使うことになったため、NIIなどで「JSTのシステムが使いにくい」と会議で要望を伝えたら、30分後に文部省から電話があり、「大臣が怒っている!」と言われた逸話もある。
2004年には、あちこちを飛び回り、1日に何人もの関係者に会った。
日本の英文学術誌の支援、強化を通して学術情報の国際発信力を高める「ネイチャー・ジャパン」構想に重心を移していくプロセスは、大御所の方々の日本の学術情報流通に与える影響力の大きさを垣間見た。
- 独自性を持つSPARC/JAPAN
「SPARC/JAPAN」に関連する政策文書としては、科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 科学技術委員会 デジタル研究情報基盤ワーキンググループ「学術情報の流通基盤の充実について(審議のまとめ)」(2002年3月12日)があり、「海外の電子ジャーナル等の体系的な収集体制の整備が必要とされる一方、日本の学協会からの学術情報発信機能の整備が必要であるとされた」。
オープン・アクセス運動を標榜する本家のSPARCとは異なり、学術情報の発信力強化に力点を置いた日本版SPARCは、日本独特の活動と位置付けられるだろう。
----------------------------------------- - SPARC/JAPANの立ち上げ
- 機関リポジトリ
- 先駆的事例とそれを支えた人材
わが国機関リポジトリのパイオニアは、千葉大学附属図書館CURATOR(2002年プロトタイプ開発開始)である。土屋館長のもと、キーパーソンが揃っていて、やれたことだ。
- 意義深い政策文書
国立大学図書館協議会 図書館高度情報化特別委員会 ワーキンググループ「電子図書館の新たな潮流―情報発信と利用者を結ぶ付加価値インターフェイス―」(2003年5月29日)が重要。
1996年学術審議会建議以降の電子図書館を見直し、「新電子図書館システム」を提唱している。わが国の機関リポジトリの歴史を開いた文献の一つとも言える。
- 現場機関の貢献
「デジタルリポジトリ連合(Digital Repository Federa-tion:通称DRF)」(2006年11月)の設立も大きかった。北海道大学を代表として、85機関の参加を見た。若手による活動があり、非常に充実した素晴らしい場となった。
現在日本の学術情報流通政策を動かしているのは、残念ながら文科省ではなく、NIIなどの現場の各機関で、特に機関リポジトリへの取組では顕著である。
NII委託事業は、わが国を「機関リポジトリ大国」に導いた点でまれにみる成功を収めたプロジェクトと評価していいだろう。
また、DRFに代表される各大学の取組も称賛に値する活動で、関係者の努力に敬意を払うべきである。
----------------------------------------- - 先駆的事例とそれを支えた人材
- 学術情報流通政策の変容
中央省庁再編(2001年1月6日)の影響が大きい。「科学技術」と「学術」の力関係の変化があり、予算配分にも影響した。政策的にも科学が優位になり、学術を包含しており、好ましくない。
総合科学技術会議「科学技術基本計画」により、第2期(2001~2005年度)24兆円、第3期(2006~2011年度)25兆円という莫大な予算支出となった。しかし科学技術関係施策に対する優先度判定は、非常に厳しいものとなった。
文部科学省の求心力低下は明らかであり、学術情報流通政策の不在という課題が残った。----------------------------------------- - ゲストスピーカーとの質疑応答
- (学生)Google Scholarやブック検索に代表されるように、Googleがさまざまな取り組みを行っている。Googleによるこうした学術情報流通を、どのように捉えているか。
- (講師)GoogleからCiNiiのデータ提供を求められたとき、どのように対応すべきか思慮した。Googleというショーウィンドウを通して、CiNiiを利用してもらうという判断となり、OKした。その判断に、問題はなかった。
ブック検索については、いささか心配している。国家として、学術情報のセキュリティを考えなければいけないのではないか。電子化そのものには賛成であるが、海外企業のデータベースに日本の本が載る状況は、いかがなものか。
全部の図書館がそうする必要はないが、紙媒体での保存も必要である。
- (学生)NIIが非常に大きな影響力を持っているが、各種事業等について、評価を行っているのか。メタデータ・データベース構築事業への評価について、お聞きしたい。
- (講師)メタデータ・データベース構築事業の報告集は、1度出している。GeNiiの前身的なものでもあり、機関リポジトリへの流れを作ったものでもある。ただし、本来はそうすべきだとは思うが、この事業自体の幕引きそのものは、できていない。
- (学生)セントラルリポジトリのような、国によるインフラ整備にもとづくリポジトリについて、新しい構想や動きがあれば教えて欲しい。
- (講師)具体的な動向は、特に聞いていない。当初、NIIではそうしたものをやるべきではないという考えがあり、今日に至っていると思われる。担当者はいろいろと考えているだろうが、人員も減っており、広報できていないのが実情だろう。
- (学生)Google Scholarやブック検索に代表されるように、Googleがさまざまな取り組みを行っている。Googleによるこうした学術情報流通を、どのように捉えているか。
参考資料(井上が勝手にチョイス)
- 小西和信「日本の学術情報流通政策を考えるために」『カレントアウェアネス』296, 2008.6, p.17-22.
- 呑海沙織「学術情報流通と大学図書館--学術情報基盤,電子ジャーナル,オープンアクセス」『図書館界』61(5), 2010.1, p.528-541.
- 小西和信「人文・社会科学の学術情報流通(上)」 『丸善ライブラリーニュース』6, 2009.6, p.6-7.
- 小西和信「人文・社会科学の学術情報流通(下)」 『丸善ライブラリーニュース』7・8, 2009.11, p.10-11.
<●勉強会情報>
先日お知らせしました、2日連続 企画「トサケンなウィークエンド in 大阪 -現場パワーアップ即効 アイデア交換会-」について、引き続き参加者を募集中です!
29日(土)夜はオフ会(要するにただの懇親会)、30日(日)は午後の勉強会です。トサケン発起人・仁上さんが来られ、お話も頂きますので、ぜひ!ご参加ください!
なお、30日(日)は残席9名となっていますので、お早めにお申し込みください!(先着順)
あ、トサケンメンバー以外も、大歓迎ですよ~!
<●どうでもいい独り言>
冒頭の続きです。
予約受付開始日の今日、予想どおり全国で予約の申込みが殺到したようです。ニュースや新聞などにも取り上げられ、iPadの人気ぶりを感じさせました。
大阪では、ヨドバシカメラなどが予約を受け付けていたのですが、昼休みにニュースを見ると、100人以上の行列が出来ていた様子。
夕方にはtwitterで調べてみましたが、もう発売初日28日には入手できない様子でした。
もう諦めようかな~、と思いつつ。
大学院の授業で梅田に出たついでに、ヨドバシカメラに立ち寄ると、意外に行列が短くて。フラフラと並んでしまい、結局、申込みをしてしまいました。(汗)
申込みをしたのは、WiFi+3Gの64GB版。う~ん、やっぱり買っちゃいますか・・・。
やっぱり嬉しくて、twitterでツイートしていたら、あっという間に妻に発覚した模様。この難局をどう乗り越えるか、それが課題かも。
参考にさせて頂きます。
返信削除私も4月にブログに書いておりました。
http://yamachan.com/2010/04/22/654.php
>Yamaguchiさん、
返信削除コメント、ありがとうございます!
返事が遅れて、申し訳ありません!
いつもいろいろと、お気遣いありがとうございます。
ブログももちろん、拝見しています。
図書館プロパーでない方が、よくこれだけ書けるなあ、と感心すること、しきりです。
僕が情報関連業界のワークショップを聞いても、とてもこんな風にはできません。
またこれからも、よろしくお願いします!