2011-02-10

【参加報告】 日本出版学会「公共図書館における電子書籍サービス-大日本印刷・CHIグループによる電子図書館の構築支援サービスの取り組み」

最近なぜか、家族に髪をまとめさせようというわが娘。
この日は、お母ちゃん・お父ちゃんに断られたので、無謀にもお兄ちゃんに。


・・・もちろんグチャグチャになって、自分でやり直したことは言う間でもありません。

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さて、今日の本題。
すごく遅いレポートで恐縮ですが、先月参加した日本出版学会 関西部会の報告を。

<●【参加報告】 日本出版学会「公共図書館における電子書籍サービス-大日本印刷・CHIグループによる電子図書館の構築支援サービスの取り組み」>

開催趣旨、スケジュールなどについては、日本出版学会公式サイトをご覧ください。
なお、講師は、以下のお二人でした。
  • 株式会社図書館流通センター 取締役 永田 薫氏
  • 大日本印刷株式会社 教育・出版流通ソリューション本部 花田 一郎氏
(日本出版学会公式サイトでは、永田さんのお名前しか出ていませんでしたので、ご紹介しておきます)

<念のため、補足>

説明の必要もないと思いますが、丸善さんと図書館流通センターさん(以下、「TRC」)は、大日本印刷株式会社さん(以下、「DNP」)のもと2010年2月に経営統合され、「CHIグループ」を設立されています。




○公共図書館と出版の現状認識、公共図書館の電子書籍・図書館についてのニーズ (永田氏)

  • 日本には、約4,000の出版社と29の取次(日本出版取次協会加盟)があり、そこから約16,000の小売店やTRCへ本を送っている。TRCは、「図書館の本屋さん」としての機能を持つ。 
  • 日本の出版物流通は、再販売価格維持制度(=定価販売)と委託販売制度(=返品可)のもと、流通が成り立っている。TRCは図書館向けマーケティングが出来ており、格段に返品率が低く、かつ適正に流せるだけの在庫管理を行っている。

     

  • 出版物の販売金額は、1997年の2兆6,563億円をピークに激減。2009年は、1兆9,356億円に。特に雑誌は、ピークの7割程度で、販売減少が著しい。
  • 返品率の上昇も、大きな課題。2009年は、書籍40.6%、雑誌が36.2%にもなる。1960年は、書籍が31.6%、雑誌は22.7%だった。
  • 書籍の平均単価が下がっていることも、販売総額を落としている原因。平均単価は、2002年に1,250円近かったものが、2009年は1,146円にまで落ちている。
  • 出版社の東京一極集中が、顕著になっている。現在の4,000社のうち、東京だけで3,000社を超える。しかも、千代田区などお堀周りに集中していることも特徴的。
  • 書店数の減少も、顕著。新規出店よりも、閉店の方が多い。一方で、新規出店は大型化しているため、売り場総面積は広がっている。地方では、もう1,000平米の店では、書店業は成立しないとさえ言われている。
  • 日本の電子書籍市場は、2009年度推計で574億円、そのうち9割がケータイ向けコンテンツ。2014年度には、この2.3倍の約1,300億円に成長との予測も。
  • 創造された知が出版され、新たな知の提供となり、知の蓄積、知の交流が起きる。この知・情報の循環で、図書館をどう捉えるのかが重要。
  • 公共図書館は、館数・蔵書冊数・来館者数・貸出数などが伸びているのに、資料費が減っているという現実。
  • 資料費に占める、紙の本を購入するための予算の比率は、公共図書館では77%。大学図書館は、36%。大学図書館において紙の本は、もはや資料の一部でしかない。
  • 公共図書館には、PC利用環境も不足している。一館あたりの平均所有PCは4.7台、うちネットに接続できるものは2.9台。
    有料データベース導入率は、市立でも10%に過ぎない。広報・E-mail等でのレファレンス・電子化資料提供・メルアド公開等、すべてが低い数字。
  • 公共図書館では、地域資料のデジタル化を推進し、地域の情報拠点となるべき。地域の資料が集まりやすく、寄贈を受けやすい仕組みを。
  • 公共図書館が資料をデジタル化することで、大きなメリットがある。現物の保存と、閲覧利用の両方が容易になる。アメリカの私立高校で、65台のKindleを導入したところ、かえって入館者が増えた、という事例もあり、地域活性化にも結び付く。
  • 電子書籍では、どういうものを提供するのか。絶版本、マルチメディア型書籍、ボーンデジタル書籍、地域資料、個人出版物、外国語資料、地方・海外新聞など、いろいろなものが考えられる。
  • モノから無形データへの変化に伴い、受入・配架・貸出などが減り、肉体労働の減少的な側面が生じるかもしれない。
  • 紙の本3,000冊を電子書籍にできれば、15本の書架が減るということ。それをどう考えるか、何かに活かせるか。スペースや利用環境の変化にも、関心を持つべきだ。
  • 当然、運営管理全般の変化も起きる。サーバー・システム管理(セキュリティーなど)、スタッフの養成・研修、利用者教育などを考える必要がある。

日本の出版状況、公共図書館の現状を、データを交えながら丁寧にご説明くださいました。

最も関心を惹かれたのは、「知・情報の循環」というお話でした。電子書籍(あるいは他のいろいろな電子リソース)が普及して、「本が画面で読めるようになった!」というだけでは、寂しいですよね。
こうした電子書籍がどのように、知や学術の流れを変え、何をもたらすのか。電子リソースの本質は何なのか。そうしたことを考えさせてくださるお話でした。

(講師の永田さんは、質疑応答や会後の懇親会でもこれらについて、いろいろと示唆に満ちたお話をお聞かせくださいました)


○電子図書館の事例と展望(花田氏)

ここでは事例紹介として、話題の堺市立図書館が導入している電子図書館サービス「TRC-DL」に関する説明がありました。
システム構成図や利用イメージなどを含んだご説明でしたので、ここでは概要のみ紹介しておきましょう。

  • コンセプトは、情報環境の変化によるハイブリッド図書館の実現。TRC-DLは、デジタルコンテンツ配信ASPプラットフォームサービス。
  • デジタルコンテンツは、以下の3コンセプトからなる。
    1. 電子書籍(出版社保有コンテンツ)
    2. 貴重史料(各図書館保有コンテンツ)
    3. 情報発信(各図書館保有コンテンツ)

    1. 読者が無料で閲覧できる仕組み。専用ビューワーを使い、自宅などからも閲覧可能。
    • アクセスはID方式、ダウンロード不可。コンテンツはDRMで保護され、不正コピーもできない。
    • 所蔵できなかった資料の代替、蔵書スペースの軽減などのニーズに応える。大学図書館においては、遠隔地利用者への情報提供(通信教育課程への対応など)、教科書、シラバスなどへの対応も。
    • TRC-DLは、図書館基幹システムと連携し、付加価値を提供。電子図書館機能だけでなく、E-ラーニング、フォトDB検索システム(仮称)、デジタルアーカイブなども、DNP・CHIグループで提供したい。

    講師からは、実際にTRC-DLの画面などを写しながら、説明して頂きました。

    お話の中で、「電子図書館は、リアルな本の複製ではない。すぐ見られて、知的好奇心を満たすもの」といったお話が印象的でした。 図書館員はえてして、ユーザー側の視点でばかり見がちですが、DNPさんとしては、DRMなど著者・出版社への十分な配慮もしている様子が伺えました。その上で、実用性の見込めるシステムを模索した様子です。

    それにしても、これだけのシステムであっても、専用ビューワーがまだ必要なのですね。近い将来、HTMLやブラウザが十分に拡張され、個々の環境に依存しない(=専用ビューワーや専用ファイル形式を使わない)閲覧環境が実現して欲しいものです。


    ・・・ということで、今回のレポートを終えたいと思います。講師の永田さん、花田さんの丁寧なお話ぶりが、印象的でした。講師のお二人、そしてご参加くださいました皆さん、ありがとうございました!

    なお、日本出版学会は、常時会員を募集しています。 図書館員が関心を持ちそうな部会などを開催していますので、ご関心がある方は、ぜひこちらをご覧ください。




    <●勉強会情報>

    関西圏で開催される勉強会で、私が参加予定のものです。よかったら、ご一緒にどうでしょう?

    日本図書館研究会 2010年度研究大会

    【日時】 2月19日(土)~20日(日)
    【場所】 相愛大学
    【プログラム等】 公式サイト参照
    【参加費】 会員2,000円、非会員3,000円、懇親会参加費5,000円
    【事前申込み】 原則、2/14までに公式サイト参照の上、申込み。
    (特に昼食、懇親会は事前登録必要)
    【懇親会】 19日(土)17:30-19:30

    私も入会しています、日本図書館研究会の研究大会です。会員でない方の参加も大歓迎ですので、いかがでしょうか?
    長尾NDL館長、北先生、湯浅先生、常世田さんといったビッグネームも、大勢いらっしゃいますよ!


    <●今日の小ネタ>


      <●どうでもいい独り言(最後も雑談)>

      先月に続き、また体調不良で仕事を休んでしまいました・・・。
      昨日・今日と二日連続、明日の祝日とあわせて、思いがけない3連休です。

      先週土曜に、この数週間かかりきりだった大学院の発表「セマンティックWebとオントロジ」が終了して、気が抜けたのでしょうか。その夜に、ほっとして炬燵で寝込んでしまったら、即、喉がガラガラに。

      昨日も爆睡、さすがに今日はなかなか眠れません。
      この機に、録画してあった映画「アラビアのロレンス」を観ました。4時間近い大作ですが、一気に鑑賞。アカデミー7部門受賞の名画と言われるゆえんか、非常に美しい映像が印象的な一作でした。



      明日は映画ではなく、もう少し活動的に過ごせるようになればいいんですけれどね~。夜には、D-ヒョーゴの決起集会もありますので、何としても回復しませんとね!

      それでは、押忍!

      4 件のコメント:

      1. こんばんは。
        昨日から雪が降ったり止んだりしていますが、昨日は意外に早く溶けたので、ラッキーでした^^
        と、いきなり地元ネタですが、きっと通じるかと思ってます(笑)

        さて、「公共図書館における電子書籍サービス(以下略)」の詳しいご報告をありがとうございました。
        ほんと、勉強になりましたね^^

        まだまだ寒い日が続きますので、どうぞお風邪にご注意くださいね!

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      2. >る~さん、

        コメントをありがとうございました!
        今日も(職場近辺としては)すごい雪が降っています。
        洗濯物を、外に干してきたのに・・・。

        ところで、日本出版学会の件、こちらこそありがとうございました。
        私たちは、もっと積極的に、公共図書館・取次・書店の方々と、交流していくべきなのでしょうね。

        では!

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      3. すっかり無沙汰しております。
        「公共図書館における電子書籍サービス」の報告、興味深く拝読しました。
        当方、3月に堺市立図書館に視察に伺うことになり、大変参考になりました。

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      4. >ゲんさん、

        おお!これは、珍客で。(笑)
        このエントリーは、公共図書館の方から、何件かご意見などをお聞かせ頂きました。やっぱり、公共図書館の方には、ジャストミートな話でしょうか。

        堺市立図書館に行かれるとのこと、いいプランですね。親しくして頂いている方々がいらっしゃるので、紹介しましょうか?
        その方々のどなたかがご担当なら、私の名前を出してもらえば、悪い顔はしないと思います。(たぶん、ね)

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