3連休を利用して、豊岡市の神鍋高原に行ってきました。
子どもたちは、慣れない大雪に大はしゃぎ。
今日は脱線が長くなってしまいましたが、本題に。
<●【参加報告】 日本図書館研究会「岡崎市立図書館Librahack事件から見えてきたもの」>
10日に行われました、日本図書館研究会の第277回研究例会に参加してきました。昨年、話題となった「岡崎市立図書館Librahack事件」について、論点整理と議論を行おうというものです。
講師は、新 出(あたらし いずる)さん(静岡県立中央図書館)、上原 哲太郎先生(京都大学学術情報メディアセンター)、そして司会は藤間 真先生(桃山学院大学)という豪華キャストでした。
今回も印象に残った点を中心に、つまみ食いのレポートをしたいと思います。
いつもながらですが、これは私が聞き取った範囲で受け止めた内容ですので、その点を含めてご覧頂ければと思います。
○まずはご確認を!
この「岡崎市立図書館Librahack事件」、ネットを中心に非常に大きな議論を巻き起こしましたが、図書館関係者の中には、意外とこの事件を知らない方が多いようです。
(例会後に藤間先生から伺ったのですが、これほどの事件にも関わらず、図書館関係雑誌に論文として投稿されているケースがほとんどない、ということもその要因かもしれません。)
本件には、図書館内部に留まらない問題点も多々あるのですが、少なくとも現役図書館員がこの事件の概要を知らずにいることは、見識を疑われかねません(間違いなく、それほどの事件です)。
もしまだ、この事件について概要を把握されていらっしゃらない場合は、すぐに情報を入手することをお薦めします。Webだけでも十分な情報を入手できます。
もし何もご存じない方がいらしたら、「岡崎市立中央図書館事件等 議論と検証のまとめ」(杉谷 智宏氏)を参照するのがいいかもしれません。
同サイト「よくわかる岡崎市立中央図書館事件の流れ」は、スライドで本件の概要を整理しています。
また、同サイトリンク集には、非常に多くのネット上リソースに、リンクが張られています。
そして、逮捕されたご本人によるブログ「Librahack: マスコミ報道だけでは分からない岡崎図書館事件。」には詳細な記述がありますので、ぜひとも参照すべきでしょう。
○Librahack事件と図書館 (新 出氏)
新さんのご講演は、事件の概要説明に力点を置きつつ、とりわけ図書館からの視点としてどのように本件を考えていくのか、という問題提起でもありました。
(ご講演のかなりの部分を占めた、事件の概要については、このブログでは割愛します。上記リンクなどから、ご覧ください)
この講演の中では、逮捕されたご本人を、ネット上の通称の「Librahack(りぶらはっく)氏」ではなく、本名を使われていました。
(この逮捕が適切なものでなかった可能性が強く、ご本人の名誉回復のためにも実名で話したい、と新さんからご説明がありました。)
以下、印象的な部分をピックアップします。
- 事件の背景には、以下の3点がある。
- 図書館/図書館員の知識の欠如、対応の誤り → 安易な被害届の提出
- システムの不具合とベンダーの不誠実な対応 → 障害の発生と継続
- 警察・検察の知識の欠如 → 不必要な逮捕・長期拘留
- 図書館/図書館員の知識の欠如、対応の誤り → 安易な被害届の提出
- 図書館員のICT技術レベルは、これでよいか。「仕方ない」、「詳しい人がいない」で済ませられる問題か?「なぜ0番台の棚に行って自分で調べなかったのか」(岡本真氏)という指摘も。
- Webサービス利用者への意識が、足りなかったのではないか。リアルに来館する利用者がすべて、いわば正当な利用者になっているのではないか?
来館時にトラブルがある利用者を、いきなり警察に連絡することなど、まずあり得ない。それなのに、Webサービス利用者であれば、このようなことになるのか?
- 図書館の自由の問題として、利用者の情報を開示することを、どう考えるか。
- 図書館自身が被害届や利用者情報(結果的に無関係)を出した事情。図書館が告発し、利用者が拘束されたという結果。
- アクセスログは、利用事実か。
- そもそも根本的な意味において、図書館の自由に反する。しかも、利用者に多大な損害を与えたことに反省が見られない。
- 図書館自身が被害届や利用者情報(結果的に無関係)を出した事情。図書館が告発し、利用者が拘束されたという結果。
- 改善のための方策を、どのように考えるか。
- Webアクセスを図書館利用概念に含め、図書館業界で合意形成。
- 図書館員への基礎的な知識の研修。
- 専門機関への照会など、危機管理・対応手法の啓発、相談窓口の開設(JLA?)。
- 自治体情報システム部門との連携。
- システム仕様書作成ノウハウの共有。
- 利用者、外部からの意見聴取。
- Webアクセスを図書館利用概念に含め、図書館業界で合意形成。
新さんのお話は、とても整理されていて、判りやすかったです。
この事件のことをあまり知らない来場者がいることを想定していたのか、前半はもっぱら、事件概要に時間を割かれました。
後半では、やや辛辣な言葉も交えて岡崎市の対応に疑問を呈し、今後私たちはどうすべきかを示唆してくださいました。
新さんのお話の中で、私が違和感を感じたのは、Webサービス利用者への意識のあり方の部分です。(主に公共図書館を想定されていると思われましたが)Webサービス利用者を、本来の利用者のように捉えていないのではないか、というご指摘です。
私の感じた違和感は、新さんのご意見に対するものではありません。
そういった捉え方をする図書館員がいる、ということに対する違和感・・・というよりも、奇異な印象すら受けました。もしそうした図書館員が多くいるとすれば、図書館の先行きは・・・大いに不安ですね。
Code4Lib JAPANに象徴されるように、これからの図書館は、ICT技術を駆使してどのようにサービスを構築するかが、大きな課題のはずです。
それとは完全に逆行するかのような考え方が、まだ多くの図書館員が持っているとしたら、どうなのでしょうか・・・?
私の感覚からすると、リアルに来館しようと、自宅からWebサービスを利用しようと、全く同じ利用者だと思うのですが・・・。
もしかすると、公共図書館には、こうした考え方も根強いのでしょうか?また公共の方々からも、ご教示願いたいところです。
もし、この辺りの認識にズレがあるようでしたら、今回の事件も起こるべくして起こっているのかもしれません。
○Librahack事件から見えてきたもの ~公共IT調達を中心に~ (上原 哲太郎先生)
上原先生は、図書館の専門家ではありません。現在、NPO法人情報セキュリティ研究所にもご所属されているように、情報セキュリティがご専門です。
今回は、自治体のIT資源導入の問題点という観点からのご講演でした。
私にとっては、このお話が、とても新鮮でした!自治体のIT調達そのものに課題があるゆえに、今回のような事件が起きてしまう、というお考えかと思います。
図書館界の議論でこういったアプローチは、寡聞にして耳にしたことがありませんでした。
<イヤ、本当に勉強不足なだけかもしれないんですけれど・・・。(汗)
先ほどの新さんのご講演がスタンダードでスマートなものであったのに対し、上原先生は(少なくとも私にとっては)斬新な視点と提言で、ある意味好対照なお二人のお話を楽しく(不謹慎かな?)伺いました。
さて、以下に印象に残った点をご紹介します。
- Librahack事件が提起した問題は、いくつもある。しかし今回は、以下の2点(それも、もっぱら1点目)に絞って考えたい。
- 岡崎市は図書館システム調達に際し、プロポーザルにより高評価を与えて落札しているが、このような事態になった。何故このような事態が起きるのか?
- 図書館はWebアクセス記録を「任意で」警察に提出した。図書館の自由宣言は、どこに?
- 岡崎市は図書館システム調達に際し、プロポーザルにより高評価を与えて落札しているが、このような事態になった。何故このような事態が起きるのか?
- 岡崎市は、(入札によらず)プロポーザルにより、平成18年から現システム・三菱電機インフォメーションシステムズ(MDIS)のMELIL/CSを導入した。年間資料費が約6,000万円なのに対し、現システムの合計は、何と5年で5億円!
「図書館システムの現状に関するアンケート」(三菱総研)によると、資料購入費を超えているIT投資は、約6%の図書館に過ぎず、初期構築費は平均2,000万円程度。
- では、MELIL/CSは、その価格に見合うものだったのか?プロポーザル集計表によると、MDIS社が高得点を取っているのは、「インターネット蔵書検索業務」、「セキュリティ対策」、「個人情報保護に対する内規や社員研修」。
これは今回の事例で、満足な対応ができなかったことばかり。少なくとも、専門家の目から見て、Webシステム関係はセキュリティに配慮されたものではない。
- Librahack氏逮捕とは直接の関係がないとは言え、個人情報漏えいが起きたのは何故か。パッケージのひな形をもっているはずのMDISが、ユーザー館でカスタマイズしたバージョンを、次の館へ安易に持ち込んだことが要因だ。どんな「個人情報保護に関する社内研修」をしたら、こんな運用が可能なのか。
- そもそも、公務員システムとは何か。
公務員が大事にするのは、「身分」や「安定」。評価が減点主義なので、何もしないことが最適戦略になってしまい、専門家は育たない。
しかも原課調達主義で、ICT技術の評価・価格の妥当性すら、全くできない人たちばかりになってしまう。
私(上原先生)が関わった例でも、某自治体の下水道システムの随意契約で、ひどい例があった。積算から何からメチャクチャなので、「半額にして!」と言うと、本当に半額になった。いかに、公共システムが杜撰に運用されているか、よく判った。
- 自治体IT調達においては、IT版ストックホルム症候群がみられる。特に贈収賄関係もないのに、業者と原課が癒着してしまう。
システム移行は、原課にとって恐怖であり、業者にとってはチャンス。原課はトラブル回避のため、業者は技術の判らない顧客として、Win-Winになってしまう。
- 自治体は、業者が金銭的利益を追求する存在であることを忘れていないか。名のあるベンダーも、下請け・孫請け・臨時職員で対応していることが多い。大手の名刺に、安心してはいけない。
- 公共IT調達は、どうあるべきか。
- IT担当課が、調達に最初から関わるべき。
- 自治体に仕様書を作るチカラを。(適切な競争・ベンダロック排除の仕組み)
- 必要に応じた、外部の目を。地域にそうした人材を。
- IT担当課が、調達に最初から関わるべき。
- 図書館へのメッセージ。
- 図書館の自由は、どこへ?
図書館はなぜ、「任意で」Webアクセスログを提出したのか。漏えいした督促リストのことが、大きな問題にならないのか。
- ITを魔法扱いしてはいけない。
今後ますます重要になるIT技術を、自分たちには判らない「魔法」だと思い込まない。
- いまこそ「無料貸本屋」から脱却を。
電子書籍の時代に、改めて図書館のあるべき姿が問われる。本当に残るのは、レファレンス能力。
- 図書館の自由は、どこへ?
上原先生のご指摘は、公共IT調達そのものの問題点でした。
こうした問題点があったが故の、杜撰な業者選定と運用体制が背景となり、起こるべくして起こった問題、というご認識でした。
○質疑応答
この後、パネルディスカッション・質疑応答となりました。
細かいやり取りは追い切れていませんので、割愛してしまいますが、自分の質問だけ。
【井上からの質問】
今後の対応として、社会的・組織的な措置が必要かと思う。
(新さんへの質問) 図書館界で、何かWebアクセスに関するガイドライン類が作成されているのか?
(上原先生への質問) 自治体の窮状は理解できたが、国からの指導などはないのか。
今後の対応として、社会的・組織的な措置が必要かと思う。
(新さんへの質問) 図書館界で、何かWebアクセスに関するガイドライン類が作成されているのか?
(上原先生への質問) 自治体の窮状は理解できたが、国からの指導などはないのか。
【新さんからの回答】
図書館というよりも、公共システムのガイドラインとして考えられるべき問題だとは思う。
あえて図書館で言うなら、JLAになるだろう。図書館の自由委員会が、調査は行っている。結果としては、まだオープンになっていない。
【上原先生からの回答】
国から、自治体のシステムについて口をはさむことは、基本的にない。現政権が地方分権を推進していることも、影響しているだろう。
自治体間では、システムの連携を図ろうとする検討は、以前からなされている。今は特に、2012年に外国人登録制度が改変されるのに伴い、現場では検討が重ねられているようだ。
○最後に
今回の事件については、多少なりとも把握をしていたつもりでしたが、セミナーでお話を伺うと、またさらに多くの疑問が出てきます。
- Librahack氏は、起訴猶予のままだが、これは落とし所になっていないのでは?不起訴とは、意味合いが違い過ぎるのでは?
- 岡崎市立図書館としての対応は、どうか?最初から最後まで、至るところに過失めいた対応があったのでは?再度検討し、場合によっては公式に謝罪するべきでは?
- 今後図書館に、データ提供することのインセンティブをどのように持たせられるのか?
- 図書館界としての総括的なアクションが必要では? <やっぱりJLA??
- 警察は被害者の立場から動いているそうだが、これが「被害」なのか?誰かが被害者として手を挙げたら、ふとしたことで拘留・逮捕するのか?
- これほどの大事件を、真剣に議論しない図書館界って・・・?下手をしたら、半分くらいの図書館員が、この事件を知らないのでは・・・?(汗)
- ?一般に妥当とされる程度のWebアクセスで、突然逮捕される可能性が現実味を持ったが、社会全体の委縮を、どのように解決するのか?
・・・などなど。
私としては、明快な総括ができるわけではありませんが、大いに考えさせられる事件だと思います。
本件に対する考えを深める上でも、この日のお話は、とても示唆に満ちたものでした。
講師お二人はもとより、司会の藤間先生からも、適宜補足をしてくださったり、講師とフロアを意見交換させてくださるなど、ご活躍でした。
<藤間先生にも、お話を伺いたいくらいでした。(笑)
講師の先生方、司会の藤間先生、そして日本図書館研究会の役員の皆さん、ありがとうございました!
<●勉強会情報>
関西圏で開催される勉強会で、私が参加予定のものです。よかったら、ご一緒にどうでしょう?
- 「日本の学術情報流通の現在」 (大阪市立大学創造都市研究科ワークショップ)
【講師】 小西 和信 教授(武蔵野大学)
【日時】 1月18日(火)18:30~20:30
【場所】 大阪駅前第2ビル 6F 大阪市立大学梅田サテライト101教室
【参加費】 無料
【事前申込】 不要
私の在学する大阪市立大学 創造都市研究科の主催イベントです。終了後、懇親会あり。 - 「電子書籍と図書館 ~日本ペンクラブと日本図書館協会の意見~」 (<日本ペンクラブ・追手門学院共催セミナー> 講演&トークセッション)
【講師・パネリスト】松岡 要氏、山田 健太氏、中西 秀彦氏(中西印刷専務取締役、日本ペンクラブ言論表現委員会委員、大谷大学非常勤講師)、高畑 悦子氏(追手門学院大学・附属図書館事務長)
【司会】 湯浅 俊彦氏(夙川学院短期大学准教授、日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長)
【日時】 1月23日(日)14:00~
【場所】 追手門学院 大阪城スクエア
【参加費】 500円
【事前申込】 必要(登録はこちら)
豪華講師・パネリスト・司会陣、これは必見ですね!
<●今日の小ネタ>
- 堺市立図書館が電子書籍の提供を開始
千代田区図書館に続き、西日本の公共図書館では初めて、堺市が電子書籍の貸出を開始。文芸書・語学学習の参考書・ビジネス関連書など、約2,500冊を利用可能。PCだけでなく、今後iPadなどにも対応予定。
- 「世界の全書籍の数」:Googleはどう数えたのか
Googleにはすごい数の職人さんがいて、だいたい目分量で「このトラック1台なら、3,350冊ってところやろね」などと、数えているのかと。(笑)
- 欧州委員会、「Europeana」プロジェクトでGoogle Booksに対抗へ
ヨーロッパでは、相変わらず文化の独自性・独自保存を貫こうという姿勢か。ジャンヌネー氏の「Googleとの闘い」を参照するとよいかも。
- BCCKS、「天然文庫の100冊」のiPhoneアプリ版をリリース。
ユニークな活動で知られるBCCKSが、iPhoneアプリをリリース。「新しい本」のカタチを模索する試みが、ここにも。
- 米電子書籍市場3.2倍に 10年、ペーパーバック抜く公算
2010年の合計で、日本の市場を上回るとも予測されていた、アメリカ電子書籍市場。それにしても、ペーパーブックを抜くとは・・・。
- 貸本の福袋、中身は何かな 宝塚市立西図書館が200袋
「しょっぱい福袋」・「どっぷりきのこ」・「ガハガハわらおう!」って、どんな本が入っているんだろう・・・?ちなみに、私の最寄り図書館は、この宝塚市立西図書館。
<●どうでもいい独り言(最後も雑談)>
さすがに今日はちょっと、ボリュームが多すぎました。
書き上げるのに、一体何時間かかったのやら・・・。
(それでも、パネルディスカッションの部分を割愛してしまいました)
久しぶりに、「今日の小ネタ」もやってみましたので、余計時間がかかりましたね。
ネタ集め、ウラ取り、サイト比較などをしていると、意外と長く時間がかかってしまいます。これも、かなり楽しみながら、やれることなのですけれどね。
これだけ時間があったのは、昨日・今日と仕事を休んでしまったからです。
昨日は子どもたちが揃ってダウンし、昼寝させている間に、せっせとブログ書き。
今日は家庭内感染か、自分までお腹を壊してしまいましたが、昼寝をするとかなりスッキリしました。明日からは、3人揃って社会復帰できそうです。
期せずして、5連休になってしまいましたが、明日から頑張ります。
それでは、押忍!
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