2009-07-12

再販制に乗らない本。ポット出版の試み

最近、このブログで空手家を名乗っているせいか、ある方から質問を受けました。
「井上さん、空手強いんですか?」

・・・・とんでもない!

ウチの道場は、段・級によって、帯が8ランクに分かれています。最上位は、ご存じ黒帯ですね。
私は茶帯で、一応上から2番目ということになっています。茶帯を締めてから、すでに4年。そこだけ見ると、そこそこの腕前のようにも見えます。

・・・が。
実際は、はっきり言って、未熟者です。やればやるほど、自分の弱さが判るというか、至らなさを知るというか。基本稽古にしたって、一つ一つが未完成なのが、よく判ってしまいます。(涙)

好意的に解釈すれば、それが判る程度には、研鑽を重ねたということかもしれません。空手を始めて9年目、それなりに上達はしている気もしないでも・・・ないですが。

まあ今日は、空手の話はこれくらいにしておきましょう。
でも、これから少しずつ空手のことも、お話することにしましょうか。
私の一番の趣味というか、もはや生活の・・・もとい、人生の一部ですので。私の語り、これからも聞いてくださ~い。(笑)

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さて今日は、今、業界で話題の1冊を。


「本の現場:本はどう生まれ、だれに読まれているか」
永江 朗 ポット出版 2009年7月 1,800円+税

永江さんの本ですから、内容そのものもライブラリアンであれば、気になる1冊には違いありません。
・・・が、今この本が注目されているのは、内容以外の部分です。
この本は、いわゆる再販制に乗らずに出版、つまり価格設定が小売店の自由になる本なのです!
詳しくは、まず以下の記事をご覧ください。

asahi.com「値段は本屋さんが決めて… 値引きOK本、異例の出版」
(2009年7月9日)
http://www.asahi.com/culture/update/0708/TKY200907080177.html

いろいろと積極的な試みで知られるポット出版ですが、今回、また面白いチャレンジをしましたね!

 ポット出版
 http://www.pot.co.jp/

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ご存じのとおり、国内の本の販売は、定価販売が大原則ですね。
これは、出版社と小売店が本を定価で販売するよう、再販売価格維持契約を結ぶことで成立しています。これを俗に、再販制(再販売価格維持制度)と呼んでいます。
そして、上記の図書「本の現場」は、その再販制を適用しないというのです。

そもそも、何故日本では事実上、本が再販制のみで販売されているのか、という話になりますね。例によって、私は専門的な知識を全く持っていないのですが、要約すると、以下のような話になります(たぶん)。

  1. 通常流通している物品は、独占禁止法により、製造業者が小売店に定価販売を強制することを禁じられている。
  2. しかし、新聞や書籍などのみが、例外的に再販制を認められている。
  3. 一方で、独禁法は再販制を認めている反面、値引き販売を禁じてはいない。(ここが重要!)。
  4. それにも関らず出版界は、出版・小売店が一丸となって、再販制を維持してきた。この制度の是非は、継続課題として残されている。

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上記3.にある通り、独禁法では、再販制を義務付けているわけではありません。あくまで、再販制を例外的に認めることができる、と言っているだけです。

 独占禁止法
 (正式名称「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」)
 http://www.jftc.go.jp/dk/lawdk.html
 (著作物に関する規定は、23条4項を参照)

「・・・そうか~、じゃあ、別に本は定価で売らなくてもいいんよね?この本に限らず、他の本も自由価格で売ってもいいんじゃない?」と思った方・・・大正解!
そうなんです、本は、小売店が自由に価格を設定してもいいんです。
ただ、出版社と小売店が再販売価格維持契約を結ぶために、慣行上かつ事実上、定価販売になっているだけのことなのです。

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出版界は今まで、上記4.のとおり、頑なに再販制を維持してきました。
出版社・小売店とも、定価で販売することが安定した収益になる、という判断をしているのでしょう。それがひいては、「出版物の価格の安定は文化の普及や学術の進展に寄与してきた」という見解に繋がっています(多分に、建前的ではありますが)。
流対協などは、この問題については、かなりナーバスになっているようですね。

 出版流通対策協議会「ニュース・声明」
 http://homepage2.nifty.com/ryuutaikyo/news/news_saihan.htm

私としては、出版界の見解に対して、いささか否定的な見方をしています。 
再販制の是非について真剣に検討したわけではないのですが、一向に改善が進まないとされる、旧態依然とした本の世界の流通制度に疑問を持っているからです。

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再販制の是非については、公正取引委員会でも、検討されてきました。要は、定価販売を維持することが、消費者にとって利益になるのか、ということです。
議論は、「著作物再販制度の取扱いについて」(平成13年3月23日)という文書で報告されていますが、結果として「当面同制度を存置することが相当」として、再販制は引き続き認められることになりました。

 公正取引委員会
 「著作物再販制度の取扱いについて」(平成13年3月23日)
 http://www.jbpa.or.jp/nenshi/pdf/0108.pdf

一方、同文書では、以下のように記載されています。

  • 「競争政策の観点からは同制度を廃止し,著作物の流通において競争が促進されるべき」
  • 「現行制度の下で可能な限り運用の弾力化等の取組が進められることによって,消費者利益の向上が図られるよう,関係業界に対し,非再販商品の発行・流通の拡大,各種割引制度の導入等による価格設定の多様化等の方策を一層推進することを提案し,その実施を要請」
  • 「公正取引委員会としては,今後とも著作物再販制度の廃止について国民的合意が得られるよう努力を傾注するとともに,当面存置される同制度が硬直的に運用されて消費者利益が害されることがないよう著作物の取引実態の調査・検証に努める」

・・・というわけで、再販制の撤廃に、多分に含みを残しています。
これから、公正取引委員会がどのように動いているのか、非常に流動的なのだと思います。私としては、将来的に、再販制全廃へ舵を切るのではないかと思っていますが?

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ちなみに、再販制については、下記のサイトが詳しいです。
今回、私も改めてこのサイトを訪問し、勉強しました。(笑)

 著作物再販制に疑問を持つためのサイト
 http://f29.aaa.livedoor.jp/~resalep/index.html

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・・・で、ようやく話は最初に戻ってきました。(笑)
このような出版界の現状で、ポット出版、よく再販制でない販売に踏み込んだものです。私は事情を全く分からない素人ですが、なかなか大胆なチャレンジであることは、容易に察しがつきます。

もうずいぶん長くなったので、詳細は割愛しますが、ポット出版は、河出書房新社・青弓社・筑摩書房など7社とともに、35(さんご)ブックスという新しい販売制度に取り組みます。
これは、小売店のマージンを35%に高める代わりに、返本の際の引き取り価格を35%に下げ、出版社の返本リスク低下と書店の利益アップを見込むという、野心的な取り組みです。

 カレントアウェアネス「出版8社が責任販売制度「35ブックス」を開始へ」
 http://current.ndl.go.jp/node/13543

面白いです、ポット出版!
また改めて書きたいと思っていますが、Googleブック検索でも独自のスタンスをとり、心ある多くの書店員・図書館員・著者を喜ばせています。
成功するかどうかはともかく、本の世界をよくしていこうというポット出版の試み、大賛成です。頑張れ~。
<とりあえず、「本の現場」を早く注文しないと・・・。

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<どうでもいい独り言>

今日も長い文章を書いて、疲れました。もうAM2:40です・・・。
眠い目をこすりながら、何とか書き上げました。

今日・・・というか、昨夜というか。
短大図書館の繋がりで、某大学/短大関係者の集まりに、参加してきました。ちょっと特殊な大学/短大で、非常にユニークな方が大勢!とても楽しい時間を過ごしました。

O短大のHさん、噂に聞いていた蕎麦の腕前、流石でした!ぜひまた、次回もご馳走してください。店員さんぶりも、よかったですよ?(笑)

E社のHさん、今日は楽しい話をいろいろとありがとうございました。勉強会の件、日程をアナウンスしてよろしいでしょうか?

そして、O大学のTさま!
今日はご招待、ありがとうございました。今日お集まりだった若い皆さんのご活躍、祈念しています!

2 件のコメント:

たきせあきひこ さんのコメント...

非再販で値引きOK本についてですが、パズル誌のニコリも、「直販委託」または「地方小出版流通センター扱いの買い切り」となっていて、同じような試みをおこなっているようですね。

http://www.nikoli.co.jp/ja/company/contact.htm

ニコリの場合は、新刊が出たら値引きOK と書店に伝えているそうです(ソースが見つからないのでデマ情報だったらすいません)

それにしてもこういった制度が当たり前になってくると、規模の大きな書店にメリットは大きいけど(薄利多売でそこそこ利益)、小さな書店はもう生き残れないかも(値段を極端に下げられなくて高い本屋というレッテルでお客が離れる)…とか思っちゃうんですが、どうなんですかね。

結局、ネット書店が一人勝ちして、本屋さんという事業自体、将来は消えさる運命なのかなぁ。

井上 さんのコメント...

>たきせあきひこさん、まいど!

いつもコメント、ありがとうございます。
ニコリさんも、同様の取り組みをなさっておいでなのですね!
新刊が出たら、バックナンバーを値引きしてよい、ということでしょうか。

最近は、価格自由本コーナーなどを見かけるようになってきました。
これらはいずれも、こうした取り組みによるものなのでしょうか??

再販制のない海外では、事情が全く違うのでしょうね。
経営体力のある大書店が有利、という構図は、ここでも同じなのかもしれません。

ネット書店が一人勝ち・・・という図式は、まだ当分先のように思えます。
やっぱりリアル書店で買いたい、という気持ちの方が、まだまだ多数派なのでは。
<私も、そう。