どうやら自分の部屋で寝るはずのわが子が、寂しくて私のフトンで寝ている様子。
泥酔のおっちゃんが、30キロの小学生を抱えて運ぶのは、かなり無理がありました。
さて、今日の本題。
先日のエントリーでご紹介しました講演会が非常に素晴らしかったので、レポートします。
<●ボイジャー萩野正昭社長ご講演「激動する電子図書の動向 -市場モデル、技術など-」> |
- 【タイトル】 「激動する電子図書の動向-市場モデル、技術など-」(大阪市立大学 創造都市研究科 都市情報学専攻 知識情報基盤研究分野ワークショップ)
- 【講師】 萩野 正昭氏(株式会社ボイジャー社長)
- 【日時】 2010年12月7日(火)18:30~20:30
- 【会場】 大阪駅前第2ビル 6F 大阪市立大学梅田サテライト101教室
講師プロフィールや株式会社ボイジャーについては、先日のエントリーをご覧ください。講師の出された新著「電子書籍奮戦記」や、「理想書店」などについても、紹介しています。
○概要 |
電子書籍の世界は、数年前とは比べ物にならないほど、激変している。今回は、電子出版をめぐる「世界」の状況を頭に置いて、考えていきたい。
我々は現在、文字の発明、グーテンベルグの印刷技術の確立に続く、「第3の革命」に直面している。この革命に際し、我々はどういう位置に立っているのか、という点を踏まえておく必要がある。
その上で、プラットフォーム、ブラウザ、フォーマットなど、現在の電子書籍をめぐる状況を確認する。次いで、15~20年ほど前に、どのようにしてどういった電子書籍を創っていたかをお話したい。金銭的なものを含めて、当時どれほど膨大なエネルギーや情熱、パワーが注ぎ込まれていたのかを知って欲しい。
これから「第3の革命」にあたり、情熱を持った人が底辺から道筋を作り、この革命を担ってくれることを期待する。
○はじめに |
- 講演の視点
この大阪市立大学でのワークショップの講演も、もう3年目になる。
3年前と現在とでは、電子出版をめぐる事情が、全く違う。3年前の時点では、電子出版における「世界」を語れなかった。今日は、「世界」の状況を頭に置いて、話をしたい。 - 第3の革命
今年、津野海太郎さんが国書刊行会から「電子本をバカにするなかれ」という本を出した。「書物史の第3の革命」という一章が実にすばらしい。
この「第3の革命」に入っていくにあたって、我々はどういう位置にいるのか、という点から話をしたい。
○電子書籍をめぐる諸状況 |
- この10年の象徴的出来事
この10年の動向を端的に表す、象徴的な3つの出来事があった。- 2003年にオープンしたAppleのiTunesとStoreによるデジタルデータ販売の成功
デジタルデータの販売方式の提案とビジネスとしての成功したこと。 - 2004年のGoogleブック検索
デジタル化された図書の情報が、膨大にネット上に存在するようになったこと。 - 2007年、AmazonのE-BookリーダーであるKindleの発売
電子リーダーデバイスが、買い捨て前提の商品として成立したこと。
- 2003年にオープンしたAppleのiTunesとStoreによるデジタルデータ販売の成功
- 日本における電子書籍市場
- 日本の電子書籍市場は、2009年で574億円になった。大半が、ケータイ向けコンテンツである。PC向け、スマートフォンやタブレット端末向けコンテンツは、まだごく一部。これは日本だけでなく、世界的な傾向である。
- 安価な消耗品として、タブレット端末などが普及・定着するという予測もある。
- 日本の電子書籍市場は、2009年で574億円になった。大半が、ケータイ向けコンテンツである。PC向け、スマートフォンやタブレット端末向けコンテンツは、まだごく一部。これは日本だけでなく、世界的な傾向である。
- ブラウザ、プラットフォーム
- 電子出版の配信は、将来ブラウザが担うことになるだろう。
ePUB(IDPFが推進する電子書籍の世界標準を目指すフォーマット)は、HTML5コンテンツのパッケージングとして発展するだろう。そうなれば、ブラウザはネイティブにePUBをサポートするように発展する。 - デジタル出版において最大活用されるプラットフォームはどうか。読者は、個々の作品ごとにアプリケーションをインストールするようなことは望まないだろう。
また、出版社には、自社作品のデジタル化、あるいはビューア対応を拡大できる様な事業基盤及び人的リソースはない。 - 自己増殖が可能な、Amazon、Apple、Googleという巨大配信勢力を出版社がコントロールする事は不可能だ。これは現状にも当てはまるが、これから異種のプラットフォーム、デバイスが増加する未来は特に顕著になるだろう。
- 電子出版の配信は、将来ブラウザが担うことになるだろう。
- 標準規格の諸課題
- 現在のHTML Webページは、読書に向いていない。ブラウザはネイティブにePUBをサポートするように発展するだろう。日本だけではなく、アジアでは広域に渡り、縦書きへのニーズがあり、対応する方がいいだろう。
- 現在のHTML Webページは、ほとんどの出版社にとり問題である。PDFドキュメントは、最新のモバイル端末にとって最適とはいえない。Webカスタマイズ——複製増殖可能な生産ラインが必要である。
HTML5はSVGをサポート。PDFページを正確に表示できるし、XMLにより記述されているため、非常に使いやすい。 - 文字の問題で言えば、Webのフォントセットには、日本の字がない。長期的な視点でみると、フォントは気にしなくてよくなるだろう。
- 技術的にも、電子出版の実現に向けて、相当な力が加わっている。日本では、ソニー、トッパン、DNP、そしてボイジャーも。
- ePubはver.3.0を1月までにまとめて、来年5月にはパブリックビューにかける予定。
- 第3の革命に入った今、具体的な事例が生まれつつある。大半はケータイ向けコンテンツであったが、日本の市場は574億円もあり、アメリカ以上で世界一である。
しかし2010年は、アメリカが逆転するだろう。アメリカの普及は、iPhoneやiPadの普及もあって、ものすごいスピード。だからこそ、Google eBooksなどが投入されてきている。
- 現在のHTML Webページは、読書に向いていない。ブラウザはネイティブにePUBをサポートするように発展するだろう。日本だけではなく、アジアでは広域に渡り、縦書きへのニーズがあり、対応する方がいいだろう。
○1980年代を回顧して |
- 先駆的事例
- ここで、どういった風に電子的な本が創られるのかを考えてみたい。
今は、魅力的なデバイスが多数あり、そこに既存のコンテンツを入れていっている。電子書籍ならではのコンテンツが必要、と言われるがすぐに作成できるものではない。
テレビも当初は、たいしたことのないコンテンツと映画ばかりだった。マクルーハンの言う、「新しいメディアは、古いメディアを擬して出てくる」ということではないか。 - 「電子書籍元年」までには長い歴史、いわば紀元前がある。ここでは、その紀元前の作品を紹介したい。
(約20年前にアメリカボイジャー社が作成した電子書籍“Who Built America”, “Understanding McLuhan”の紹介ビデオ上映)
(実物の紹介・回覧をしながら、)このパッケージのサイズは、ランダムハウスの ”Modern Library”と同じにしている。いかにボイジャーが、本に対する尊敬、コンプレックス、そして憧れを持っていたかを感じさせる。
これらは、今のパソコン環境では、全く見ることができなくなっている。これだけのものを作るのは、たやすいことではなかった。とんでもないエネルギー、情熱、そしてお金を費やしている。 - 当時、CD-ROMは一つの世界だった。データが無限に入っている世界、そしてデータが無限に見えた時代。世界に散っている必要なものを、このwalled gardenに入れ込んでいこうと考えていた。
- ここで、どういった風に電子的な本が創られるのかを考えてみたい。
- walled gardenからWebへ
- しかしインターネットの登場により、一つの世界がwalled gardenだったことに気が付いた。今は一枚のCD-ROMにデータを詰め込む必要はなく、ネットからデータを引っ張ってくるようにすればよい。本の内容に連動する検索手段を使って、どこかにあるテキストなどにリンクすればよい。
- こうしたデータをため込んでいるのは、図書館である。資料にいろいろな文脈を付けていこうという人たちに、蓄積されたデータが開放されていけば、こうした活動は飛躍的に進むだろう。
新しいコンテンツが作られるとき、あらゆる情報と私たちを繋ぐことが、公共的に保証されなければいけない。 - 特定の企業が世界中の本をデジタル化するのではなく、壁を取り払ってみんなが参加するような形が必要だ。
- しかしインターネットの登場により、一つの世界がwalled gardenだったことに気が付いた。今は一枚のCD-ROMにデータを詰め込む必要はなく、ネットからデータを引っ張ってくるようにすればよい。本の内容に連動する検索手段を使って、どこかにあるテキストなどにリンクすればよい。
○電子書籍の「生態系」 |
- 本の定義
- 本の定義は変化する。たとえば紙の本の場合、著者とは、将来の読者のために特定の主題にかかわる人のことだった。ネットワーク上の本では、著者とは主題の文脈に沿って、読者とかかわる人になる。
- したがって、著者を中心とした、共通の関心をもつ活気あるコミュニティを作り出し、涵養する能力において傑出した出版社がこれからは成功するだろう。
- 本の定義は変化する。たとえば紙の本の場合、著者とは、将来の読者のために特定の主題にかかわる人のことだった。ネットワーク上の本では、著者とは主題の文脈に沿って、読者とかかわる人になる。
- テキストの外にある「生態系」
- 読書は(あるいは文章を書く行為は)、個人のレベルだけで起こるわけではない。個々の作品や私たちの作品との関わり方は、人々の振る舞いや活動、身近な環境といった、テキストの外にある生態系にとりかこまれている。
- その生態系には、どのようにしてその文章は書かれるに至ったか、私たちはいかにして読む作品を選び購入に至ったか、そうした体験を他人と分かち合うか、といったものが含まれる。
- 読書は(あるいは文章を書く行為は)、個人のレベルだけで起こるわけではない。個々の作品や私たちの作品との関わり方は、人々の振る舞いや活動、身近な環境といった、テキストの外にある生態系にとりかこまれている。
- 現在の印刷本の「生態系」
- 印刷本の時代の終わりに向かっている現代において、この生態系は主に以下のような要素で成り立っている。
- 出版社・編集者の作り出す著者獲得システム
- 著者と読者の間にある厳密な線引き
- 宣伝に際しての大手メディアへの過剰依存
- さまざまな書店、そしてAmazon
- 出版社・編集者の作り出す著者獲得システム
- 改めて見てみると、いかに既定されたものの中で動いているかが、よく判る。
Amazonは、一人の読者によって読まれる印刷本という、今なお優勢な読書モードと同じDNAの産物である。 - Kindleのインタラクション・デザインも、厳格なDRM(デジタル著作権管理)によるコンテンツ供給も、Kindleに期待されているのが現在の印刷本の生態系を維持するという保守的な役割であることを、はっきりと示している。
- 印刷本の時代の終わりに向かっている現代において、この生態系は主に以下のような要素で成り立っている。
○最後に |
- 現在のビジネスモデル
現在の電子書籍ビジネスは、旧来のビジネスとの軋轢が最も小さくなるように、デザインされている。値付けも、刊行スケジュールも、DRMも、いまだに出版業界の収益の中核である印刷本ビジネスを脅かさないように構造化されてきた。 - 今後の電子書籍モデル
- こうしたものを超えていかなければ、電子書籍の未来はないだろう。国民全体の利益は、旧来のビジネスモデルを破壊するものである。いわば、「ノーAmazon、ノーApple、ノーGoogle」で。
- 北米では、Amazonなどを覇権勢力として捉え、抵抗しようとする勢力が存在している。米ボイジャーなどは、過剰なエネルギーと背伸びで、96年につぶれてしまった。
- この教訓も吸い上げて、我々はアメリカのインターネットアーカイブに辿りついた。そういうものに身を投じて、情熱を持ってやりたい人がやりたいことをやってみることが大切。底辺から道筋を創り、育て上がってくるものを、大事にしたい。
次の世代がこうしたものを受け止め、第3の革命を担うつもりで、向き合ってくれれば、と願う。
- こうしたものを超えていかなければ、電子書籍の未来はないだろう。国民全体の利益は、旧来のビジネスモデルを破壊するものである。いわば、「ノーAmazon、ノーApple、ノーGoogle」で。
○質疑応答 |
- Q. マクロメディア社とアドビ社について、過去と現在について思う所があればお聞きしたい。
A. マクロメディアとは長い付き合いがある。マクロメディアを買収したアドビ社については、彼らを除いて電子的な出版の話ができないほど。紙と電子を繋ぐ重要な場所を占めている。アドビ社は、高いソフトを専門的な人に売るビジネスモデルを持っているが、適切な動きができていないのが現状では。 - Q. Amazonが出版社のブランドを台無しにした、と資料にあるが、日米で違いはあるのか。
A. 出版社には、自分たちの本をマーケティング・ブランディングし、読者に届ける使命がある。20世紀最後には、出版点数において異常な時期になった。出版社のアイデンティティー確立と、Amazonのビジネスは相反するものだ。 - Q. 電子出版物が今まで以上に豊かなコンテンツを提供できる一方、図書館がそれを単に共有するだけであれば、図書館が今までに提供してきたコンテクストに比べ不十分になるのでは。総体的に、図書館の地位が低下するのではないか。
A. バークレーの大学に勤める石松氏が出版ニュースに、「図書館は残る、巨大な倉庫として。倉庫の管理人は残る、だがライブラリアンはいなくなる」(*)と書いた。半面は真実だと思う。コンテクストを作りあげるようにやり遂げるには、とても大きな力が必要。そのために、デジタル時代に役だってこそ、図書館の意義がある。これからの図書館には、貸出機能を含め、ますます多くのものが求められる。 - Q. 日本で電子書籍が普及するにあたって、欧米と違う点はあるか。
A. やはり、言語の問題が大きい。本は、言語と切り離せない。文字そのものや組版が、出版社によって違うことも多い。ただ、言語のことは、やればやるほどローカル。世界の標準規格を使いつつ、ラスト1マイルをうまくやる、といった柔軟性が必要だ。
(*)石松久幸「今、アメリカの大学でライブラリアンと呼ばれる職業が絶滅しつつある--デジタル化がもたらしたもの?」『出版ニュース』2187, 2009.9. p.6-10
○懇親会 |
これだけいいご講演をお聞きしたら、当然講師を囲んで懇親会ですよね。
懇親会場では、萩野社長と同じテーブルで、いろいろなお話を伺うことができました。草の根的に、長くこの道に携わってこられた方ならではの経験と情熱、非常にいい刺激を受けることができました。
失礼ながら、萩野さんのこれまでの道のりは、決してサクセスストーリーではありません。だからこそ、そのご経験がこれからどのように電子書籍に活かされていくのか、大いに楽しみです。
また、萩野さんがおっしゃる次の世代として、自分たちに何ができるのか、考えていく必要がありますね。
(必ずしも、電子書籍を作ることだけが、求められているのではないと思います。ライブラリアンには、ライブラリアンのできることが、あるよう思います)
ついでに書いておきますと、私は買っていた「電子書籍奮戦記」に、しっかりとサインも頂いてきました。
しかも、ちょうど発売されたばかりの「本は、これから」(池澤夏樹編、岩波書店。萩野さんも共著者の一人で、「 出版という井戸を掘る」という一章を書かれています)まで、頂いてしまいました。
この本については、追ってこのブログでも紹介したいと思います。魅力あふれる一冊ですので、ぜひご一読を。
○講演後のニュース |
嬉しいニュースが、年末に飛び込んできました!
ボイジャーの提供する電子書籍専用書店「理想書店」が、日本電子出版協会が定める電子出版アワード2010において、オンライン・サービス賞を受賞しました!
私たちにとっても、嬉しいことですね!
<●どうでもいい独り言> |
実は今、JRの特急北近畿の中で、このブログを書いています。
ちょうど土曜休暇も重なり、3連休。せっかくの機会ですので、子どもたちを連れて、スキーに出かけているのです。
このエントリーを自宅で書いてしまいたかったのですが、何しろ時間がかかるもので。
結局、iPadを持って、スキーに出かけることに。(涙)
誤算と言えば、いささか乗り物酔いになりつつあることと、北近畿では電波がしばしば途切れることでしょうか。(笑)
それでは、押忍!
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